〜小春日和の散歩〜
「鎌倉アルプス」
北鎌倉駅〜建長寺〜天園ハイキングコース〜鎌倉駅

2002.02.23


年頭の計画に「鎌倉アルプス」を逍遥することを掲げていた私達。諸般の事情で向かうことができずにいたのだが、平成14年小春日和の2月23日に、ようやく出かけることができた。以下はその時の記録です。

鎌倉は歴史に彩られた古都。南に海を開き三方を山に囲まれた天然の要塞である。新田義貞が鎌倉に討ち入った際、干潮の稲村ガ崎から侵攻したというのは作戦としては頷けることだ。当時も今も地形はそうは変わっていない。

小さな路地裏の、そこかしこに埋め込まれた1000年の歴史をガイドブック片手に歩くことは知的好奇心を満たしてくれる。逍遥の散歩は愉しいことだ。昨年放映の「北条時宗」もそうだが、数年前NHK大河ドラマ「太平記」で、足利尊氏と新田義貞、鎌倉幕府の終焉を観る機会があった。前橋で仕事をしていた時代に、何度か足利市を訪ね、尊氏ゆかりの寺などを見学することがあった。足利から鎌倉、さらには上洛までの距離を想い、人々の移動距離の量の大きさ、時空の流れなどに思いを馳せたことがあったのだ。当時を生きた人々の「鎌倉への道」の痕跡がそこかしこに点在している町、それが鎌倉である。

5年前に遡る。私達は東京で暮らし始めた最初の夏を湘南海岸に遊んだ。それを皮切りに何度か鎌倉を、江ノ島を訪れた。4年前のお正月、それは丹沢塔の岳で冬キャンプを経験した後のことだった。お正月初詣に「鎌倉」に行こうと言うことになった。どうせなら江ノ電に乗って七里ガ浜から海岸線をそぞろ歩いて鎌倉を目指すというのはどうだろうと企画した。コンビニでおにぎりと天婦羅うどんを仕入れ、稲村ケ崎公園で富士山を眺め、寒さに震えながらおにぎりを食べ鍋焼きうどん啜った。何という美味しさだったことだろう。そういうふうにして私たちは幾度となく鎌倉を徘徊した。

「鎌倉アルプス」その名前を知ってから2年ほど経つ。鎌倉八幡宮を取り囲むようにして作られた隘路がそれだった。建長寺が基点になっていて瑞泉寺までの、おおよそ2時間というコース。「アルプス」という名前を冠するくらいだから、さぞかし情緒に溢れている路なのだろうと想像は膨らむばかりであった。

2月23日(日)朝09時に起床した。鎌倉に向かうには、やや遅い時刻であったが思い切って出かけることにした。テルモスに命から二番目に大事な珈琲を詰め0930に家を出て電車に飛び乗った。朝食は京浜東北線、混雑する車両の中で行儀悪くパンを齧ったことだった。品川で横須賀線に乗り換え北鎌倉駅を目指した。1200到着。鰻の寝床のように長いホームを降り線路伝いの路を円覚寺目指して歩き始めた。小春日和の午後、同じように鎌倉を訪ねる人が多かった。踏切を渡った向かいに「蕎麦屋」の看板。まず腹ごしらえをしなくてはいけない。名物という山菜蕎麦とうどんを頼んだ。持参した雑誌に「店」の写真が掲載されていた。山菜がたっぷり盛られた蕎麦を食べ、「いざ鎌倉」

ほどなく建長寺境内の大きな山門が見えてきた。鎌倉五山の一つで北条時頼建立の古刹。歴史の狭間で、その時々の権力者の庇護を受けてきた巨大な伽藍。既に色褪せてしまっているものの往時の殷賑ぶりは十分に偲ばれる。日蓮はこの山門下で、あの有名な題目「南無妙法蓮華経」を唱えたと言う。ちなみに、この文字が刻まれた母の墓標が富士の麓に立っている。

300円の拝観料を払って山門を潜った。お金を払って登る山などそうはない。目くじらを立てても仕方がないので、ここは大人しく払うしかないと笑った。

境内には人が溢れ紅梅、白梅が咲き溢れていた。爛漫の春の匂いが境内に溢れていた。全長5キロに及ぶ鎌倉アルプスの始まり。半僧坊大権現までは石段の道。雨で穿たれて蜂の巣のように穴のあいた石段を登り始めた。段々暑くなってきた。オーバージャケットを脱いで腰に巻き付けた。一気に石段を登りきった。はあはあと肩で息をした。身体が山に慣れる為の準備運動みたいなものだ。半僧坊到着。家内安全、合格祈願、子宝祈願の板がにぎにぎしく並べられていた。いつの時代も庶民の願いは「家族の幸」ということなのだろう。

眼下に建長寺の屋根が見えた。遠くには鎌倉の街並。その向こうに相模湾が見えた。海が銀色に反射していた。芽吹き始めた木々に見えかくれする家々の屋根。洗濯が風にはためいていた。すぐ傍に人々の暮らしが営まれているのには笑ってしまった。

急な山道をひとがんばりすれば最初のピーク。間違えようのない登山道である。深く抉られた洞窟のような空間があり、堆積した土が横一線にくっきり縞模様を描いていた。鎌倉名物「切り通し」の出現かと驚いた。記念写真を一枚とった。峠の茶屋のある「天園」まで一気に歩いてしまった。小屋の裏手に堆く積まれた大量のジュース缶、ゴミ袋が風情を殺してくれる。「そりゃないぜ」という気分。

ここから南に進路を取り、鬱蒼とした木立を抜けていくと、ほどなく瑞泉寺分岐に到達してしまった。予定時刻を30分も短縮してしまった
 「ああ、もう終わったよ」
 「あっけなかったわね〜」
人で賑わう瑞泉寺には立ち寄らず、そのまま鎌倉八幡宮境内を目指した。早咲きの桜が葉を落しかけていた。小町通りを素見して鎌倉駅に向かった。来年のお正月もまた来ようっと。

文責: 青島原人

追記:ウォーキングの対象として「鎌倉」選んだので、登山とは別の視点で歩いてみようと思っています。高校時代に先生の目を掠めて読んだ平家物語の再読もいいかな(むろん、吉川英治に止めを刺します)お陰で試験はいつも赤点で、追試を受けてやっと単位を貰った次第です。


inserted by FC2 system