〜湘南神秘島〜
「江ノ島探検記」
夏の終わり、湘南の「アジア」江ノ島を訪ねる

1996.08.30
江の島燈台


朝8時、待ち合わせの場所で、相棒を待つ。例によって遅刻してくる。見つかると面倒なので急いで煙草を揉み消す。今日の相棒は煙草嫌いなのだ。ターミナル駅の地下駐車場に車を停め、東海道線で西へと向かう。平日の午前中の列車はガラガラ。睡眠不足から自然と瞼が重くなる。薄目を開けて相棒を見やると、嬉々として車窓にかじりついている。子供なんだよねー。藤沢で江ノ電に乗り換える。四両編成だ。列車は文字通り民家の軒先をかすめてペンペン草の生えた線路を走る。車窓をぼんやり眺めていると、相棒に肩を捉まれ前後にガクガクと揺すられる(比喩だけど)。いかん、何時にも増して思考の沼底に沈んでいたらしい。現世に戻らねば。

江ノ島駅で列車を降りて歩き出す。蒸し暑い。細い道の両側に商店が立ち並んでいる。どこからか荒井由美の曲が聞こえてくる。荒井由美の頃はよかった。単純で。弁天大橋を渡りはじめると、江ノ島が橋の向こうに霞んで見える。ここを訪れるのは、曇天の日にかぎる。その怪しさいや増すからだ。橋を渡りきり、朱色の鳥居をくぐると、だらだら坂の登りが続く。総じて、みやげもの屋は朝が早い。すでに大半の店が開いており、店先には、日本中のどこにでもあるみやげが並んでいる。まんじゅう屋の店先では信楽焼の狸が口から湯気を吐いている。うーん

江ノ島神社への階段下に着いたところで、相棒がエスカーに乗って楽をしようと言う。なんじゃ、そのエスカーっていうのは。曰く、臨海部に「ゆりかもめ」ありき、しかれども、江ノ島に「エスカー」あり。エスカー..?もしかして..。その、もしかしてだった。江ノ島大展望台までの階段道を自動で登る巨大?エスカレーター。なんで、エスカレーターなんだよー。黒部ダムじゃあるまいし。(あれはケーブルカー)。と、笑い飛ばしたものの、暑さと疲労から、止む無くエスカーを利用することにする。(結局乗っている)。

チケットを買って4連のエスカレーターを登ると、あっという間に江ノ島植物園に着く。植物園では、おりしも、食虫植物展が開かれている。うーん。広場には、白いプラスチック製の丸テーブルと椅子が置かれ、たこ焼きやらラーメンやらソフトクリームやら、無国籍料理屋台群がぐるりと周囲を取り巻いている。片隅に射的の店があったので、いっちょやってみるかと、自動販売機でコルクの弾を買っていると、どこからともなく射的屋のおやじが現れた。どっから出てきたんだ..。全然あたらない。尤も初めてだから無理もない。おやじがにやっと笑ったような気がした。

植物園の中心部にある江ノ島展望台に向かう。水色(水色だぜ!)にペイントされた鉄骨組みの脚の上に白い円柱部分と赤い尖塔。江戸川乱歩風の秘密基地のようにも見える。また楽をして、今度はエレベーターで塔の中程まで登る。(少しは歩けよー)。眺めはいい、が、足元の敷板が傾いているようにも思える。歩くとぎしぎしと軋むので早々に降りる。日が照ってきて、ものすごく暑い。自動販売機でジュースを買う。140円。やはり観光地価格だ。飲みながら帰り道をてくてく歩く。エスカーは、登りしかないのだ。

世界の貝の店のウィンドウに、オーム貝と並んで兜蟹の剥製がぶら下がっている。うーん。こうなると、壷焼きのさざえの殻さえ、怪しく見えてくる。塀の上に、アリスのチェシャ猫みたいな毛並みのいい猫が座っている。あまりの高貴さに、愛機MINOXGE10を構える。さすが江ノ島の猫だ。カメラ目線でポーズをとってくれた。猫の写真じゃなくて海の写真を撮りにきたんだけどなあ。

片瀬江ノ島で昼食をとり、連れと別れて、再度江ノ電に揺られ鎌倉へ。小町通りの馴染みの古本屋で一冊買う。今日は幸先がいい。横須賀線で本拠地へとってかえし、野毛の天保堂でさらに足穂の初版を手に入れる。このところ足穂づいている。やはり、かの植草甚一先生が言っておられたように、最初に訪れた本屋でつまらなくても一冊買うと、その後ついてくるらしい。伊勢崎モールを歩いて、いつもの有隣堂へ。錦繍を購入。
1996.08.31 02:00 脱稿 文責: 木蓮

後記:むかし、むかしに書いた文章です。手直ししようかとも思ったのですが、ある種の「勢い」があるので敢えてそのまま掲載しました。


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