はっぱ  錦繍の瑞牆山を訪ねて 

紅葉の山を訪ねて瑞牆山に登山してきました。
予想通りの全山紅葉で瑞牆山の奇観と相まって素晴らしい山行となりました。奥秩父連峰の最西端に在るこの山は標高2230mの岩肌を持つ奇岩山。同じ奇岩の景観を持つ群馬県の妙義山とは対照的な岩容でした。黄葉と紅葉の織り成す錦繍の、美しく豊かな自然の中に身を置き晩秋を思いきり堪能、下山後は里深い地にある有名な増富のラジウム温泉への入浴。久しぶりにのんびりできました。10月初旬の赤城山散歩以来の山行でした。


【日 付】 1998年10月31日(土)〜11月1日(日)晴れ
【場 所】 瑞牆山


10/31(土) 前夜、中央高速で増富温泉へ
夕方6時に家を出て中央高速に乗るべく環状7号線に出る。渋滞に巻き込まれ入り口に辿り着くまで2時間を要する。何と言う混雑。永福から高速に乗れば短縮できたのだが経費の無駄を省くため、急ぐ旅ではないため、まあいいかあ的な気分で走っていたのだが、あまりに込むので短気な相棒が生理的欲求のために次第によじれてきた。(笑)

調布から八王子まで600円の高速料金を取られる。えっ?なんでと相棒。この人は中央高速を使ったことがないらしい。おまけに甚だしい地理音痴。八王子でカードを貰って一路韮崎目指してひた走る。韮崎ICで下車。出口を右折し瑞牆を目指す。そもそもここから間違っていたみたい。山に向かうはずが街の灯に近づきつつあるのだから、間違っていることは分っていたのだが、食料の仕入れを行わなくてはならなかった。しかし、山中のこととてコンビニのあろうずがない。韮崎ICが山の中とは知らなかったとは相棒の弁。(私も知らなかった)コンビニを探しあぐねて竜王町まで車を走らせる羽目となる。何と言う無駄。

ようやくつけたコンビニで地図を広げ、現在地と向かうべき方向を確認する。国道20号から141号線に至り駒井交差点を右折すれば、あとは一本道。こんな時ナビがあばなあと相棒は言うのだが、私はあんまり好きじゃない。第一、値段が高いし人間ナビの方が遥かに優秀ではないか。ようやく増富温泉に到着した。既に23時となっていた。駐車場に車を止め、シュラフに包まってそそくさと眠る支度。ビールを飲み干した相棒は既に昏睡状態?になっている。私も側を流れる川の瀬音を子守り歌にいつしか深い眠りに落ちていた。

 ◆  ◆  ◆

11/1(日) 瑞牆山荘に向かう道
目覚は6時半。少し寝過ごしたかな。相棒を蹴り起こして(笑)自動販売機のコーヒーを飲ませて覚醒させる。そうしないといつまでも夢の中で訳の判らない寝言を言う癖があるのだ。コンビニで仕入れたパンと牛乳で朝食。そうこうする間に車の往来が激しくなっていた。どうやら徹夜組がご到着だ。我々も急ぎ出発した。駐車スペースが懸念された。データでは100台前後となっている。

瑞牆山荘に向かう道、朝日に映えた深い原生林の美しさは言葉を超えていた。圧巻だった。黄の葉と木々の綾なす光の模様は際立って美しく、まるで日本画の世界。永らくあのような景色に出会ったことがない。10年ほど昔、石川県白峰のブナの原生林を歩いた記憶が蘇ってきた。紅葉した木々の中を歓声をあげて瑞牆山荘に到着。瑞牆山の姿はここからはまだ見えない。大勢の登山者がいた。車のナンバーを見ると関東勢が多かった。

木々

困った時はお互いさま
着替えを済ませ靴を取り出し身支度を整えていると、ひとりの男性が近寄ってきた。車は横浜ナンバーで4人のパーテイだった。

 「あのーすみませんがホワイトガソリンをお持ちではないですか」
一瞬絶句。(実は持っているだけに答えに詰まった。正直だよね。)
 「持ってますよ、、、。」
    (どうして持っていることが判ったんだろう)
 「燃料が漏れてしまって空になっているんです」
    (何と間抜けなひとだろう。くす。)
 「他のメンバーも持参していなくて、、、。」
    (予備は準備しておくものです。えへん。)
見やるとコールマン製の一体型のコンロ。(これ、大きくて重いんだよね)
 「頂上でラーメンを食べるだけの量でいいんですが分けて貰えませんか」
 「はあ、、、。」

こちらも余計な燃料は持参していないんだけどなあ。まさかの時のビバーク用に確保しておかなくてはいけないし、、、まあ頂上までは3時間ちょっとだし、人も多いし、ビバークなんてことはないだろうと判断。それに予備としてプリムスと小さなガスボンベを持参してる。(えへん)
 「いいですよ」と返事。
おじさんの表情がパッと明るくなった。(30代前半だから、おじさんは悪いか)
紙を三角に折ってSIGGボトルから慎重に燃料を移す。半分以上入れてあげた。150CCもあれば一日は大丈夫。

 「あのーお礼は?」
 「いやあ、困った時はお互いさまですから」と慈悲の心。

私も水筒を忘れて見知らぬ人に水をいただいたことがある。あの時は笹の露を嘗めながら山に登ったことだった。水筒を忘れた私は間抜けもいいところ。青島原人も、燃料と水は持参したものの肝心のバーナーを忘れたことが二度ある。阿呆の極みでした。以来、道具の点検は怠りなくやるようになりました。

いざ出発、心わくわく
瑞牆山 7時40分出発。登山口の入り口で写真を一枚。林道経由で行くことにした。白樺、みずならの群生が美しい。大地の感触を確かめるように一歩一歩刻んでゆく。身体が山に慣れるまではこのリズムでいい。蛇行しながら林道を歩いてゆく。先ほどのお兄さんたちが追い付いてきた。お礼にとチョコレートをいただいた。私の好みがどうして判ったんだろう。(笑)
ほどなく里宮神社の指標に辿り着く。大勢の人が一息入れていた。ここからが本格的な登山道となるようだ。急登が始まった。足が重い。汗ばむ。息が乱れる。たまらず休息。水を口に含む。ああ、やっぱり身体がなまっているなあ。

富士見小屋まではひたすら登り。林立する唐松の柔らかな黄葉が迎えてくれた。大勢の人が思い思いの休息を取っている。天幕が点在していた。金峰山からの下山組もいた。ここにテントを張れば楽しそうだ。水場は近い。帰路はあそこで水をお土産にしようと思った。有料トイレ30円なり。しばしの休息を取り出発。小屋の左側から瑞牆山を目指す。右に行けば金峰山。次回の楽しみに取っておこう。富士見小屋からゆるやかな下りとなり、天鳥川まで一気に下る。清流が音を響てて流れていた。ロープを拠り所に川を徒渉する。橋が架からない道理。この地形では架けようがない。増水したら徒渉は難しいだろう。

休む間もなく出発。ほどなく大きな岩が現れた。何でも桃太郎岩というのだそうだ。中心から縦にぱっくり二つに割れていた。あんなに見事に割れるものかと感心した。写真を一枚。木の階段を登る。既に膝にきている。倒れた木と大きな岩の間を、ロープをよじ登り木々に縋り付き、身を屈めてすり抜けながら頂上を目指す。登山というよりは子供時代のかくれんぼごっこのような感覚。そうこうする内に巨大な大ヤスリ岩に到着する。仰ぎ見てポカンとした。なんであんな巨大な岩が、空を目指して屹立しているんだろう。なんで?なんで?

11時15分、頂上に立つ
そこから頂上まで一気のアルバイト。最後の階段を登りきると頂上だった。11時15分。2230mの頂は人で溢れていた。立錐の余地もない。こんなに混雑している頂上も珍しい。霞の向こうに雪を冠って化粧した秀麗な富士山が見える。同じように南アルプス、気品漂う北岳も雪を冠っていた。裾野広がる八ヶ岳の峰峰。小さな角を持った金峰山が、すぐ其処に聳えたっていた。すぐにでも登りたい気分になる。

コッヘル 吹き渡る風は既に冷たい。パーカーを着る。猫の額程のスペースを探して早めの昼食。おにぎり二個をあっという間に食べる。水を沸かしてコーヒータイム。相棒がうまそうにタバコをふかしている。私も一本つけた。山座同定を行い写真を撮る。しばし山頂の景観を楽しむ。南側は目が眩むほどの切り立つ崖。あの巨大な大ヤスリ岩が眼下に見える。ここが2230mの頂きであることを実感した。

12時20分、下山を開始。滑り落ちる感覚で一気に天鳥川まで下る。色付いた黄葉が陽を浴びて輝いていた。風が吹く度に、ひとつ、またひとつハラハラと落ちてくる。唐松の葉が風に吹かれて空に舞いがり揺れながら落ちてくるのだった。そのいくつかが優しく頭上に降り注いでくる。秋の盛りなのだ。いい景色を見た。富士見平で「お約束」の水を確保。豊富な水量だ。顔を洗い汗を拭く。気持ちがいい。二人合わせて3.6L。お土産に丁度いい。

木々

下山後、増富温泉で疲れを癒す
増富温泉で入浴。600円なり。おふろ場は私ひとりの貸し切り。ふたつの浴槽がある。冷泉のラジウム温泉と熱いお風呂。交互に入るようにとの御指示だった。肩までお湯に浸し、じっと瞑目して緊張を解き放つ。この時間がなにより嬉しい。

お風呂から上がって食事を済ませる。一番安い、とろろ定食でお腹を満たした。おみそ汁がインスタントだったのが寂しかったなあ。なんであんなことをするんだろう。帰宅は23時だった。中央高速恐るべし。

文責: 木蓮


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