新緑の廻目平、初の渓流釣り 

GWはキャンプをベースにして近郊の山に遊ぼうと決まった。
候補地は奥秩父廻目平キャンプ場。小川山、もしくは金峰山に遊び、渓流釣りに初チャレンジするという企画。海釣りは昔ひとおとりやったが、渓流は初めて。岩魚、山女魚という名前からして床しい。警戒心が強く容易に姿を現さないというではないか。是非、この手で釣ってみたいものだ。

木々 木々

【日 付】1999年05月06日(木)〜07日(金)晴れ
【場 所】廻目平キャンプ場


出発前、初めての渓流釣りにわくわく
久しぶりにわくわくする。この企画のために釣りの本を2、3冊図書館から借りて読んだ。最初は、またはじまったわ、というような顔をしていた木蓮も、現金なもので、「あなた、その魚を晩御飯のおかずにしましょうよ。焚き火で焼いて食べればワイルドじゃない、、、。そういうの一度してみたかったの」などと言う。
「うん、まかしとけ」とは言ってみたものの、そもそも道具がない。出費を渋る木蓮をなだめて上州屋(釣り具店)に赴く。店内には、これでもか!というくらいたくさんの釣道具が並んでいた。

店員さんに「今度、渓流釣に行くんだけど、遊びのレベルでできるだけ安く道具を揃えたいんだけど、どれがいいかなあ」と尋ねると、「わかりました」と、飲み込み顔で一言。瞬く間に、道具が揃った。廉価な渓流釣竿と糸、針(毛ばり)、ガンダマという重り、浮き。締めて2,750円のセットであがった。これで岩魚が、山女魚が夜御飯の食卓に並ぶはずだった、、、。

 ◆  ◆  ◆

05/06(木) 早朝、自宅を出発
全ての準備を終えて、6日早朝に東京を発ち中央高速に乗る。目的地は須玉インターから清里経由で1時間ほどの処にある。早朝の南アルプス、八ヶ岳山麓を視野に入れて快適なドライブを続ける。

08:00、廻目平キャンプ場に到着。受付を済ませ、サイト場所と魚の釣れそうな場所を教えて貰う。山の様子はどうでしょうと聞いたところ、小川山は腰まで残雪、金峰山頂上も30センチ前後の雪が残っているから、軽アイゼンが必要でしょうと言われた。う、、アイゼンは持って来なかった。やっぱり釣りだ!ところが、どうやらキャンプ場近くの渓流には居ないらしく、放流してある所まで行かなくてはならないらしい。放流?そういう仕組みになっているの?(源流に棲むイワナ、ヤマメではなかったのか、、)この段階で、最初の目論見が外れた。山に向かう途中に釣り場がなくては風情がないというものだ。一瞬、途中のスーパーで魚と肉を買ってくればよかったかなあ、、、ちらり思った。

テント テント テント

川沿いのサイトにはテントが4ツだけ。連休も終わりとあって人影はまばら。聞けばGW中は、相当な混雑だったらしい。おふろ場のカランを一斉に捻ったので、お湯の温度が下がって困ったとか。ともあれ温泉でなくとも汗を流す利便性があるだけでも快適だ。
テントの設営に着手。昨年中古で仕入れた未使用のREIドーム型テントは、3人から4人用なので登山用にはちょっと荷が重い。今迄使っていた登山縦走用(1人から2人用)と違い、天井が丸くて高さがあるので解放感がある。車を使ってのキャンプには最適だ。

廻目平は日本の「ヨセミテ」
周囲を見渡すと異様な岩が立ち並んでいる。日本のヨセミテと言われるだけはある。昨年登った瑞牆山と同じヨーロッパ的山容だ。たゆとう時の流れ、吹き渡る春の匂いのする爽やかな風を全身で感じた。1時間ほどで設営を済ませ、カフェを飲みタバコをくゆらせながら、ゆったり過ごした。焚き火の後が残っていた。「かまど」はそのまま使わせていただこう。

昨夜の睡眠不足もあり、眠たくなってきた。二泊三日の予定だし、停滞用に本もたっぷり持参してきた。シュラフを取り出し2時間ほど仮眠を取る。11:00に目が覚めた。
さて今回の主目的の釣り。今晩のおかずを自給しなくてはならない。時刻からいって釣れる時間帯ではないのだが、まず一竿いれなくては釣れない道理。車を出してキャンプ場の外に出て、ポイントと言われる河川に出かけた。ダム湖に流れ込む渓流があった。そこで記念の一竿。しかけは「テンカラ釣」。店員さんに教わった通りにやった。久しぶりにわくわくしたなあ。釣れたらうれしいな、、。

池 いわゆるアタリが読めなかった。流れが速いのと川面に反射する光の乱射が眩しくて、まるでお話にならない。木蓮は河原に腰かけ、まるで期待していないという風情でパンを食べている。もうお昼だった。何度も竿を投げ入れるが、釣れるのは川底の石と背後の木枝だけ。情けない、、。やっぱり時間が悪いのだ。こりゃ、あかんわと早々に引き上げることにした。それでも釣り気分は、まあ堪能できたかな。かくして今晩のおかずは缶詰めということになった。面目ない。

そうさ、焚き火ってのはいいもんなんだ
キャンプ場に戻ってからは薪集めに精を出す。木蓮は屋外で焚き火をするのははじめてだと言う。魚は無いが、せめて焚き火だけでも体験させてやらなくっちゃ。小枝を集めて新聞紙で種火を作るがなかなかうまくいかない。昔さんざんやったんだけどなぁ。悪戦苦闘すること小1時間。日も暮れかかってきそうなのに出るのは煙と煤ばかり。先に風呂にやっていた木蓮とバトンタッチして、ほうほうの体で小屋の風呂へ。

広い浴槽にひとり浸る贅沢を味わう。連休の最中なら、こうはいかないだろう。腰までの雪ということで小川山への登山は諦めたが、金峰山山麓までゆっくり逍遥するのもいい。源流を辿るのだから、ひょっとして魚もいるかもしれない。明日、もう一度、チャレンジだ。
焚き火 風呂から上がってくると、日が翳って吹く風も冷たい中、木蓮が健気にも焚き火に挑戦していた。何と、7割方成功している。旦那の権威もあったものではない。後を引き取り、盛大に火を起こして薪を燃やす。火柱が立つ。ある程度火柱をあげないと炎が安定しない。

大きな薪を並べてカマド状にし、飯盒を置いてα米を雑炊仕立てに炊く。寒さが迫り、とても生米から炊いている余裕がなかった。「焚き火ってほんとうにあったかいのねぇ」と彼女が言う。火に照らされた顔が赤く染まっている。そうさ、焚き火ってのはいいもんなんだ。火を共に眺めるだけで伝わるものがある。遥か昔、縄文人も同じようにこの炎を見つめていた。身体に埋め込まれた遺伝子の記憶が静かに騒ぎ出す。黙して見上げた夜空には満天の星が瞬いている。また夏に来ようと心に思う。凍りつくように冷たい水で歯磨きを済ませ、テントに潜り込む。たちまち深い睡眠に入っていった。かくして第1日の夜は終わった。

 ◆  ◆  ◆

05/07(金) 新緑の逍遥、釣りと山への想い
翌朝07:00に木蓮にたたき起こさた。私の役目は珈琲をたてることだ。昨日の焚き火はきれいに炭になっていた。昨夜の記憶がまざまざと蘇る。パンで簡単に朝食を済ませる。近くの若いパーティは早くもザックを背負い登山に向かう準備を終えている。実にアクティブだ。あの若さが羨ましい。空は雲ひとつない。刷毛で青色を掃いたように染みひとつない空にくっきりと映える山々。きっと山頂は360度の大展望だぞ。金峰山登山口へ向かう道は渓流沿いなので、一石二鳥を狙って軽登山用に装備を整え、釣り竿を持って出発した。

木 木 09:00、さらさらと流れる渓流の音を聴くともなしに聴き、春の身支度を整えた針葉樹の芽の膨らみを眺めながら、緩やかな傾斜の登山道を歩き始める。今迄に、こういう春を何度重ねてきたことだろう。名も知らない鳥のさえずりが静かな山にこだまして吸い込まれていく。今、この時刻、周囲四方にどれくらいの人がいるのだろうと、ふと思った。
小川山への小さな標識を見つけた。金峰山、瑞牆山の影に隠れて、地味な存在のように見える。どうしてどうして隅に置けないいい"女"であることには間違い無い。ルートの不便さから訪れる人が少ないのだろう。それだけに静謐な登山ができる場所になっていると見た。

いかにも魚の釣れそうな渓流に陣取り竿を構える。釣れたら儲けもの位の期待度。ましてやイワナなど、、、夢のまた夢、、海釣りとは趣が随分違う。せわしなく竿を動かし糸の行方を探らなくてはならない。突然、ぐぐっと手ごたえを感じた。おっ、、これがアタリというものか、、。30分ほど渓流に遊んだが、当然というべきか釣果はゼロだった。

ロープ 山道を辿りながらの逍遥を再び始める。カラマツの柔らかな落ち葉を踏みしめながら金峰山山麓に向かう。人っ子ひとりいなかった。3階立ての家くらいの大きな岩場が現れる。残されたザイルが陽を受けて輝き、風にたなびいていた。わずかに残るハーケンの残骸が、その存在を誇示していた。私を誘っているかのようだ。

荒れた道を慎重に辿り、ほどなく金峰山登山口に到る。場違いな車が放置されていた。焼けこげて無惨な姿を曝している。このまま行きたかったが、木蓮の体調が思わしくなく、そのせいもあって無理な行動はできない。ここから3時間ほどで金峰山頂上に到るのだが、まあ次回の楽しみにとっておこう。山は逃げないさ。

流れる沢の音に耳を澄まし、山の響きに心を寄せる
河原に腰を下し、豪華な昼食となった。夏ミカンとトマトをザックから出し沢に浸す。フランスパンをナイフで割きバターをつけて食べる。ガスコンロで水を沸かしカフェをいれる。ゆったりとした時間の流れの中に身を置きながら至福の時を刻む。いい日だ。流れる沢の音に耳を澄まし、山の響きに心を寄せる。

男の人が下山してきた。橋を軽やかに渡る仕種は、山慣れた人の動きを示していた。視界360度の世界を堪能してきたのだろう。下山してきた人の時間の豊かさを思う。いい日だと改めて思う。ひとりで山を歩ける人は強い人だ。 沢に浸しておいた夏ミカンの皮を剥ぎ、貪るように食べる。酸っぱい夏ミカンに塩を振り掛けて食べる癖がある。この酸っぱさがなんともいえず甘いのだ。

往路をそのまま引き返す。道草をはみながら、ゆっくりと歩く。「金峰山に至る」の標識がまっぷたつに割れて散らばっていた。傷んでいた。文字もわずかに読める程度に朽ちていた。拾ってザックにゆわえた。修理して玄関にでも飾れば、いいオブジェになるだろうと思った。

文責: 青島原人


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