紅葉  西丹沢の紅葉絨毯、
      温泉一泊逍遥散歩 


12月初旬に温泉一泊逍遥散歩に出かけました。
以下はそのその時の顛末記録です。


【日 付】 1999年12月03日(金)〜12月04日(土) 曇り時々晴
【場 所】 西丹沢
【装 備】 冬山装備、レインウエア、SIGG JET、ツエルト、傘


温泉、オンセン、温泉に行きたい、、、 葉 葉
ここ数年、旅館に泊まってのんびりした記憶がない。
毎日、時には数100通ものメールを処理する仕事に従事して、慢性の肩こりに悩む家人は、最近やたら温泉に行きたいなどと私に慫慂する。 私は、さほど温泉に魅力を感じている訳ではない。ベーステントを張って近郊の山を逍遥したいと思っているくらいで、そのついでの温泉なら貰い湯で対応できる。それで十分ではないかと思っていた。なにより温泉一泊をする経済的余裕を心配していた。

家人の言う温泉一泊とは、綺麗に並べられた料理をおいしく食べて、お風呂に入って、のんびりしたいというものだった。おさんどんに明け暮れる女性でなくとも、誰しも望む光景だろう。山の話をすれば必ず温泉、オンセン、温泉とのたまう始末。それほどまでに温泉一泊をしたいのかと、しみじみと顔を眺めてしまった。苦労を重ねてやつれた面、髪のほつれが首筋に、、そうか、それほどまでに温泉一泊がしたいのか、、、(どうもここらあたりはクサイなあ)一泊6000円〜10000円程度なら、貧乏所帯でもなんとかなると思った。

休日出勤の代休取得の3日(金)の午前中から捩じり鉢巻きよろしくいろいろ調べ始めた。西丹沢湖畔に公共の安い宿があった。電話で確認してみると紅葉の盛りがようやく終わり、ちらほら舞い始めた頃というではないか。近くには桧洞丸という私たちには未踏の山もあるという。これは行くっきゃない。かくして、今回は温泉一泊山遊びの企画ということになった。

待望の温泉宿に到着 葉 葉
西丹沢の公営の宿には午後5時に到着。食事は6時からということ。浴衣に着替えてさっそく温泉。広い浴槽に身を浸して、しばし瞑目。忙しかった11月の疲れを癒した。今頃は家人ものんびりしていることだろう。そうこうするうちに忘年会と思しき、むくつけき一群がおふろ場に闖入してきた。やたら騒がしい。高吟放歌ではないが、今宵の忘年会の乱暴狼藉ぶりが偲ばれるというもの。そういえばこういう川柳があったなあ。
 「無礼講、会社に戻れば無礼者」
うっかり上司の一言を信じて、日頃のうっぷんを晴らさんとモノと無礼な行状に及べば、たちどころに無礼者の烙印を押されかねない。サラリーマンたる者、努々そのような言葉を信じてはならぬ。ましてやこういうリストラの時代である。

お待ちかねの食事タイム 葉 葉
お風呂から上がると楽しい食事タイム。昔の旅館は良かった。料理が部屋に運び込まれてきたものだ。最近は食堂移動で味気ない。値段が値段だから、無理もなかろう。ビールを一本。くいくいっと一息で飲み干す。
 「う、、、ん、うまいなあ」
 「ああ、、うまいわあ」
豪華ではないけれど綺麗に並んだ料理に喜々として箸を運ぶ姿がいじらしい。出された料理を綺麗に食べたことは言うまでもない。

身障者の一団が座を占めていた。甲斐甲斐しく世話をする姿に打たれてしまった。中には薄弱者も混じっている。予想できない動きを迅速にサポートするのは容易ではない。自分の倅、娘の姿を重ねて見てしまった。なかなかできることではない。なにやら忸怩たるものを感じてしまった。

のんびりテレビを見、もうひとっ風呂 葉 葉
食事を終えて部屋に戻る。布団が既に敷いてあった。ごろり横たわりテレビをつける。有線大賞決定なんとかの歌番組をやっていた。こういうスタイルでテレビを見るのもひさしぶりの事。歌う歌手のほとんどが判らない、、それが判ったら「アンタはエライ」

二間あけた部屋から忘年会の怒涛のような騒ぎ声が伝わってきた。あのような馬鹿騒ぎを永らく私もやっていないなあ。得意な宴会業というものを誰しも一つ位は持っているもの。私の場合、それは、、、、まあそのような事を書き込んでいくといつまでも前に進めない。困ったことだ。どうやら深夜となった。寝る前に今一度、温泉に浸かりたいというので御同伴。誰もいないおふろ場で、こころゆくまで平泳ぎをやった。なにせお湯のことなのですぐさまくたばる。湯上がりの冷たいお茶が実にうまかった。

温泉宿の朝から山は遠のく、、 葉 葉
8時から朝食。6時半に目覚めたのだが、なにせ温泉宿である。朝風呂の心地よさに再び布団にくるまってしまい8時5分にドアをけたたましく叩かれて起きた。
「布団をあげていいですかあ」と太い男の野暮な声、、、。
8時に食事を済ませたその脚で山に向かうはずだったのだが、とんだ朝寝坊で計画は無惨に壊れてしまった。8時に食卓に向かう。湯豆腐と魚と、、いくらでもお腹に入る。いつもはパン一枚の朝食なのだが、やはり宿となると違うらしい。ロビーでお土産を買い珈琲なんぞを飲んで、すっかり温泉気分。これでは山は遠退くばかり。

移動を含めると山の頂上を目指すのは無理ではないか。下山時刻は真っ暗闇ということになる。私ひとりなら何とでもするが、家人を怯えさせてはならぬ。やむなく標高差100m前後の散策でお茶を濁すことにした。とはいえ初冬の山である。支度だけは完璧にしておかなくてはなるまい。

初冬の風が奏でる葉音 葉 葉
地図と磁石で方向を確認し、視界に入る山々の同定を行った。あれが権現山だな、、あのおにぎりのようにかわいい山は「おっぱい」に似ているじゃないか、、、何と言う山だろうと愚にもつかぬことを考える。いずれの山も紅葉の盛りを過ぎて葉を落としつつある。風に舞う木の葉の動きに初冬に向かう山の季節を感じる。

生憎の曇り空。それでも群雲の隙間から僅かに木漏れ日。僅かに射す日射しが紅葉の木々を少しの間だけ照らす。鮮やかな赤、黄が一瞬の輝きを見せてくれる。時間を刻印するようにカメラのシャッターを切った。最近は、露出はすべてオートに任せている。ピントも正確無比だ。写す道具のカメラもここまで進歩した。これ以上の進化は無用ではないか。ガレ場を通り過ぎるといきなりの急登が始まる。病葉が踏み締めるたびにかさこそと音を響てる。さえずる小鳥に耳を澄ませた。風が吹く度にたおやかに揺れる木々の姿。葉音が幾重にも重なり、まるで海のような広がりで迫ってくるようだ。

河原でお弁当、道草しながらの帰り道 葉 葉
40分ほど歩いた。沢の合流する地点が見えてきた。そこでお弁当を広げることにしよう。既に11時20分を廻っている。桧洞丸頂上はいつかまた行けばいい。山は逃げない。吹き渡る風はもはや冬の匂い。堰のコンクリートの陰に風を避けてバーナーに点火。宿で調達したおにぎりを食べ、お約束の珈琲を立てて飲む。水は河原から汲んだ。単独の「岳人」が頂上から降りてきた。我々の姿を認めて安心したのだろう。 腰を降ろし、やはり食事を始めた。一人で山を歩くのもいいものだ。そうこうする内に、何人かの岳人が下山し、或いは頂上を目指して通り過ぎていった。ここ西丹沢の景観もなかなかいいじゃないか。ぜひまた来ることにしようか。

13:30、満足して下山を開始する。紅葉の絨毯道を惜しみながら歩く。木漏れ日の逆光に映える紅葉などをカメラに納める為に道草していると、かみさんも木切れだの蔦だの、果ては乾燥してよじれた病葉などを拾い歩いてくる。どうやらかみさんにとっては、ことさらに「芸術的」であるらしい。そういう私も地面に堆積している病葉の色、根っこの末端の模様などをしゃがみながら、腹ばいになりながらマクロで切り取ったりしている。なかなかに自然の紋様は面白いものだ。フィルムが何枚あっても足りないなあ。

キャンプ場の露天風呂で貰い湯を 葉 葉
14:40、下山完了。西丹沢自然教室の駐車場で荷物を解く。まだ歩き足りない感じが残った。
通年営業のキャンプ場があり露天風呂有りの案内が目に着いた。500円とある。人の手が入った広いサイトが展開している。夏ともなればオートキャンパーの群れで混雑しそうな良い場所だ。一泊4000円〜5000円。レンタル完備。何もなくても車で乗り付けて金を払えばキャンプができる環境だ。まあ至れり尽せり、、、しかも露天風呂まであるというのだから鬼に金棒。閑散としたサイトに、コールマンテントが2張り、その他にも2張りほどが風にひるがえっていた。露天風呂はこの時刻だから誰も使っていない。何なら貸し切りにしてお二人で入ればと勧められたが流石に恥ずかしいので遠慮した。

首まで使って瞑目していたら一人のお客さんが入ってきた。どうやら夫婦連れ。
 「こんにちわ」と如才のない挨拶。
 「山ですか」
 「いやキャンプなんですよ、忘年会をやろうということになって」
 「ははあ、、忘年会ですか、それはいいですねえ」
 「山に行ってきたんですか」
 「ええ、桧洞丸の入り口で引き返してきたんですが、散歩みたいなもんでした」
などなど、しばしの会話を楽しんだ。壁一枚の向こうではかみさん同士が話に花を咲かせていた。 昔は何もなかった場所だったけれど、こういう施設ができてお金を払わなくてはならないようになってしまって残念、、オートキャンプというのもなんだか、、、でもそのお陰でこんな露天風呂に入れるんだから一概にダメともいえませんよねえ、、などなどの会話。 通年キャンプ場だから、ここでベースキャンプを張って西丹沢を徘徊するのもいいなあ。

 葉  葉  葉

16:00、かくして帰路に着いた。
途中からくしゃみが出始め、ぞくぞくっと寒さを感じた。あの露天風呂がいけなかったようだ。この後、風邪を引き込み、かれこれ10日あまり鼻水を垂らしながら仕事をする始末。幸い、インフルエンザではなかったものの、油断大敵というところ。

文責: 青島原人


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