母という人


幼い私を苛めるガキがいた。ある日のことだった。泣かされて帰ってきた私を見て烈火のごとく怒った母は家を飛び出すなりガキを追いかけた。驚いたガキは真っ青になり脱兎のごとく自分の家に逃げ込んだ。普通の人ならそこで足が止まる。母はそうではなかった。下駄を脱ぎ捨て家に上がり込み、件のガキをボカリ叩いた。驚いたのはその家の家人たち。呆然と見守るしかなかった。「子供の喧嘩に親が出てくるとは」とひと言。母曰く「大きな子供が小さな年端もゆかない子になにするんや」と。母の勢いに怖れをなしたガキは、以後私をことさらに可愛がってくれたのだった。母から幾度も聞かされた話。

ことほどさように母は激する人だった。卵を割るにものこぎりを持ち出すほどの徹底主義者。ちなみに母は次兄とよく喧嘩をしたそうだ。トイレの落書きに憎々しげに「虎子」と認めてあったそうだ。その次兄も既に亡くなった。そのときの葬儀代表挨拶は私が担当した。


[2010年 12月 30日]


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